- うつ病の原因は「親」か「自分」かの二択ではなく、生まれつき+育ち+環境が絡み合う多因子モデルです。
- 「自分が悪い」と強く思い込む自己責任モードは、うつ病・社会不安をむしろ悪化させやすいです。
- コミュニケーションの改善に効くのは「自分を責めること」ではなく、「スキル練習+自分への優しさ(セルフ・コンパッション)」です。
目次
はじめに
29歳インフルエンサー男さんの「鬱は親のせいにした方が予後がいい、でもコミュ障は自分のせいにした方が予後がいい」という発言、パッと聞くとそれっぽい雰囲気はあるものの、よく考えるとツッコミどころ満載です。「楽になれるなら親のせいにした方がいいのかな?」「コミュ障は全部自分の責任ってこと?」とモヤッとした人も多いはずです。本記事では、心理学や精神医学の研究をベースに、この二択思考をほどよくバラしつつ反論を5つに整理してお届けします。煽りではなく、“回復に本当に役立つ考え方”を一緒に確認していきます。
問題の発言をざっくり分解してみる
インフルエンサー男さんの主張を、いったん冷静に分解するとこうなります。
- ① うつ病になったとき → 「親のせいだ」と考えた方が治りがいい
- ② コミュ障(コミュニケーションの苦手さ)のとき → 「自分のせいだ」と考えた方が治りがいい
- ③ その根拠は「8000人を見てきた俺の経験」
一見「バランスとってる風」に見えますが、「親 or 自分」という二択に押し込んでしまっている点で、かなり乱暴です。実際の研究では、
- ・親との関係が、うつや不安のリスクを上げることはある
- ・しかし、それだけで決まるわけではない(気質・脳の働き・他の大人との関係なども重要)
- ・そして「誰のせいか」よりも、「いま何ができるか」を一緒に考える方が予後は良い
という方向性が主流です。では、そのうえで反論5選を見ていきます。
反論5選
【①】「鬱は親のせい」って一括りにするより、“原因は複数”と考えた方が回復しやすい!?
確かに、うつ病と親との関係には関連があります。
子ども時代の「愛情が少ない+過干渉」な養育(いわゆる“affectionless control”)が、大人になってからのうつ病リスクを上げるという研究は多数あります。
一方で、最近の研究では、
- ・逆に、子ども時代に「支えてくれる大人」がいた人は、逆境があってもうつ・不安になりにくい
という結果も出ています。
つまり、「親ガチャ外れた=一生鬱確定」ではなく、
- ・もともとの気質や脳の特性
- ・親以外の大人・友人とのつながり
- ・いま置かれている環境(仕事・お金・パートナーなど)
- ・治療やサポートにどれだけつながれるか
こうした要素が全部ミックスされて「現在の状態」ができあがっています。
なので、「親のせいにすると予後がいい」というより、
- ・“全部自分のせい”から離れて、「親や環境の影響もあったな」とバランスを取り戻す → 気が楽になって動けるようになる
という意味ならまだ理解できます。しかし「親だけを悪者にしておけばOK!」と言い切るのは、さすがにエビデンスからズレ気味です。
【②】「全部親のせい」に固定すると、“被害者モード”で逆に詰む可能性も!?
心理学には「統制感(locus of control)」という考え方があります。
ざっくり言うと、
- ・内部統制感:自分の行動で結果を変えられるという感覚
- ・外部統制感:運や他人に左右されるという感覚
多くの研究で、「ほどよい内部統制感」を持つ人は、メンタルも安定しやすいことが示されています。
しかしここで大事なのは、「全て自分のせい」も「全て外のせい」も極端だという点です。
- ・何でもかんでも親のせい → 「自分には何も変えられない」という無力感が強まりやすい
- ・何でも自分のせい → 「全部自分が悪い」という罪悪感・恥の感情が強まりやすい
どちらに振り切れても、行動するエネルギーが削られ、結果として予後が悪くなるリスクがあります。
うつ病の治療では、
- ・「親や環境の影響は確かにあった」
- ・「でも、これからの行動を少しずつ変えていく主体は自分」
という“ほどよいミックス状態”を目指すことが多いです。
なので、
「親のせいにした方が予後がいい」ではなく、「親や環境の影響を正しく評価しつつ、自分のコントロールできる範囲を少しずつ広げる方が予後がいい」
と言った方が、研究とも臨床現場とも整合的です。
【③】「コミュ障は自分のせいにした方がいい」←それ、ただの自己嫌悪ブーストでは?
「コミュ障=コミュニケーションの苦手さ」は、症状としては社会不安障害(社交不安障害)とかなり重なります。
社会不安では、
- ・「自分はダメだ」「人に見られる価値がない」など、強い恥と自己批判
- ・その結果、対人場面を避けてさらに自信を失う
という悪循環が典型的です。
さらに、「自分はコミュ障だから全部自分が悪い」と思い込むことは、まさに“自己スティグマ(自分に向けた偏見)”と重なり、
これはうつ・不安・自尊心の低下を悪化させるとするメタ分析もあります。
一方で、社会不安に対して一番エビデンスがある治療は、
- ・認知行動療法(CBT)=考え方の癖をゆるめつつ、会話練習やロールプレイなどの行動練習を重ねる方法
です。多くの研究で、その有効性が示されています。
さらに、最近は「自分に対する優しさ(セルフ・コンパッション)」を高めることで、社会不安が下がるという研究も増えています。
つまり、
- ・×「コミュ障は全部自分のせいだ、もっと自分を責めろ」
- ・○「苦手さの背景には生まれつきの気質や過去の経験もある。そのうえで、スキル練習と自分に対する優しさを増やしていこう」
というスタンスの方が、データ的にも現場的にも、ずっと予後がいいと言えます。
【④】“自分のせいにする=成長”ではなく、「責任の切り分け」がうまい人が一番メンタル強い!
自己啓発界隈ではよく「全部自分のせいにしろ!」と語られますが、
うつ病の研究だと、むしろ「過度な自己非難」は再発リスクを高めることが分かっています。
また、メンタル不調を持つ人が「自分はダメだから病気になった」と考える自己スティグマは、
回復や社会参加の妨げになることが、さまざまな疾患で示されています。
一方で、統制感の研究では、
- ・状況を冷静に見て、「ここまでは自分の責任、ここからは他の要因」と切り分けて考えられる人
- ・変えられる部分にだけエネルギーを注げる人
の方が、長期的には精神的に安定しやすいとされています。
本当にメンタルが強いのは、「何でも自分のせいにする人」ではなく、「自分と他人と環境の責任を、そこそこ正確に仕分けられる人」です。
なので「コミュ障は全部自分のせいにした方がいい」というのは、“強そうに見えて、実はかなり危ないアドバイス”だといえます。
【⑤】「8000人見てきた俺」より、“きちんとした研究の束”の方が当てになるw
最後に、“根拠”について。
メンタルヘルスの世界では、単発の経験談よりも、
- ・多数の研究をまとめたメタ分析
- ・系統的レビュー(たくさんの論文を整理した総まとめ)
の方が、はるかに信頼度が高いとされています。うつ病治療についても、数千件単位の研究をまとめた巨大なレビューがあり、
薬物療法・認知行動療法・対人関係療法などの有効性が、何度も検証されています。
一人のカウンセラーやインフルエンサーが「自分は8000人見てきた」と言っても、
- ・そもそも診断は正確だったのか
- ・どのくらいの期間フォローしたのか
- ・うまくいかなかったケースを、ちゃんと数えているのか
- ・自分の理論に合うケースだけ覚えていないか
といった「バイアス(思い込み)」が入り放題です。
もちろん、現場の感覚は大事です。しかし、
「8000人見た俺が言うから正しい」ではなく、「研究や他の専門家の知見とも照らし合わせて、どこまで妥当か」を謙虚に検証する姿勢こそ必要です。
少なくとも、「鬱は親のせいにした方が予後がいい」「コミュ障は自分のせいにした方が予後がいい」といった二択の決めつけは、
現時点の研究とはかなりズレている、と言わざるを得ません。
質疑応答コーナー
セイジ
「親のせいにした方がいい」って、実際うつになったときはどう考えればいいんすか??
プロ先生
まず、「親も環境も自分も、いろんな要因が重なって今こうなってる」と思ってみるのがおすすめです。そのうえで、うつ病は「脳と心の病気」であって、性格の弱さではありません。過去のつらい経験(親との関係を含む)が関わっていることは多いですが、「全部あの人のせいだ」と固定すると、自分の回復のハンドルまで手放してしまいます。
セイジ
「コミュ障は自分のせい」って言われると、やっぱ鍛えるしかない感じするんすけど、それもダメなんすか??
プロ先生
「鍛える」のは大賛成です。でも「自分のせいだから鍛えろ」というメッセージは危険です。
社会不安やコミュニケーションの苦手さって、生まれつきの繊細さや、過去にバカにされた経験などが積み重なっていることが多いんですね。その人に「お前が悪いからだ」と言うと、すでにある恥や自己嫌悪をさらに強めてしまい、むしろ練習に挑戦しにくくなります。
セイジ
じゃあ、「親のせいか自分のせいか」じゃなくて、どう考えていけばメンタル強くなれるんすか??
プロ先生
おすすめは、次の三段構えです。① 過去を整理する:親や環境の影響を認めつつ、「あれはキツかった」と言語化する ② 自分を責めすぎない:うつや不安は病気や気質の影響も大きいと理解する ③ いま変えられるところに集中する:治療・相談・生活リズム・スキル練習など。この3つをやっていくと、自然と「誰のせいか」から「どうしていくか」にフォーカスが移っていきます。
まとめ
- うつ病もコミュニケーションの悩みも、「親 or 自分」の二択では説明しきれない複雑な問題です。
- 「全部親のせい」「全部自分のせい」という極端な考え方は、研究的にも回復の妨げになりやすいです。
- 原因をバランスよくとらえつつ、「いま変えられる行動」に目を向けることが、いちばん現実的で予後のいいスタンスです。






























