- 成功や不運のかなりの部分は“偶然・外部ショック・構造的要因”で説明できます。
- 人は「行為=結果」と短絡しがち。心理学では錯覚・バイアスとして有名です。
- 「8000人に奢った経験」だけでは因果は語れません。選択・生存バイアスと回帰効果に要注意です。
目次
はじめに
「運がイイ人=“運が悪くなる行為を選ばない能力がある人”」という主張は、科学的にみると危うい一般化です。行動の工夫は確かに大切です。しかし、人生の成果や失敗には、偶然の当たり外れ、卒業年の景気や家族背景、地域格差といった“外部要因”が濃厚に影響します。また、人は自分や他人の成功・失敗を“行為”だけで説明したくなる心理的クセ(バイアス)を持ちます。本稿では、データと研究に基づき反論5選を示します。結論はシンプル。「運=選ばない行為」ではなく、「環境×偶然×少しの工夫」です。
反論1:成功や大失敗は“偶然の偏り”がデカい⇒「才能だけ」でも「行為だけ」でもない!w
複雑系のシミュレーションでは、同じ才能分布でももっとも成功する人は、必ずしも最も才能が高い人ではなく、運の良い偶然の連鎖を引き当てた人になりやすいと示されています。つまり、突出した成果のかなりの部分は偶然のタイミングや出会いの積み重ねで増幅されるのです(“Talent vs Luck”研究)。これに加えて社会では「成功した人ほど資源や機会が集まる」累積有利(マタイ効果)も働き、初期の小さな差が雪だるま式に拡大します。だから「運が悪くなる行為を選ばない」だけで結果をコントロールできる、という見方は現実を単純化しすぎです。
- エビデンス:運の作用を数理モデルで定量化(Pluchinoほか, 2018)。:
- 社会現象:成果が成果を呼ぶ「累積有利」(Merton, 1968)。
反論2:「卒業年の景気」で年収は10年以上変わる⇒それ“行為”じゃなくて“外部ショック”です!
労働経済の代表的研究では、不況期に卒業した人は長期にわたり賃金が低く、職位も下がりやすいことが繰り返し示されています。本人の「選んだ行為」ではなく、たまたま遭遇した景気が生涯の賃金・キャリアに大きく影響するのです。これは「運=行為の選択」の図式では説明できません。
- データ:不況卒は賃金低下が長期に持続(Kahn, 2010/Oreopoulosほか, 2008)。
- 含意:他者の結果を“努力不足”で断じるのは早計。
反論3:人は「行為で全部コントロールできる」と錯覚しがち⇒“錯覚×正義感”が他人の不運を行為に帰す!?
心理学では、他人の結果を性格や選択のせいにしがちな基本的帰属の誤り(Fundamental Attribution Error)や、偶然事象にさえ「自分がコントロールできる」と感じるコントロールの錯覚が古典的に知られています。さらに公正世界信念(「世の中は努力に見合って報われるはず」という信念)は、被害者や不運の人を“本人の行為のせい”と解釈しやすくします。こうした認知バイアスが重なると、「運が悪くなる行為を選ばない人が運が良い」という物語が、とても“それっぽく”見えてしまうのです。
- 基本的帰属の誤り:状況要因を過小評価するクセ。
- コントロールの錯覚:偶然にも“手応え”を感じてしまう。
- 公正世界信念:被害者非難を招きやすい。
反論4:「最近ツイてない人」は統計的に“平均へ回帰”する⇒悪い連鎖は勝手にほどけることもw
極端に悪い(または良い)結果の直後は、次回に平均へ戻りやすいという回帰効果が働きます。短期の不運続きは、必ずしも「悪い行為の選択」ではなく、単なる統計的ゆらぎである可能性が高いのです。ゆえに「運が悪くなる行為を選ばない能力」なる概念は、回帰を“能力”と誤認している危険があります。
- 基礎:極端値は次回に平均へ近づく(最新レビュー)。
- 実務的示唆:一時的スランプに過剰反応しない。
反論5:「8000人に奢った観察」にはバイアスが山盛り⇒サンプルが偏ってたら結論はズレる!
個人の大量経験は貴重ですが、統計的には無作為抽出ではないため、観察対象に選択・生存バイアスが入り込みます。例えば、目に入るのは「会えた人・語られた話」だけで、会えなかった人や語られない失敗は見えません。第二次大戦の爆撃機の例で有名なように「生きて帰った機体だけ」を見ても正しい補強箇所は分からないのです。つまり、観察の窓が偏っていれば、「運が悪くなる行為」を見間違えるリスクが高いのです。
- 概念:生存(サバイバー)バイアス=見える事例だけで判断しない。
- 象徴例:帰還機に弾痕が少ない場所こそ要補強(Abraham Wald)。
質疑応答コーナー
セイジ
結局「運」って鍛えられないんすか??
プロ先生
「偶然そのもの」は鍛えられませんが、当たりを引く確率は増やせます。試行回数を増やし、損失限定・上振れ拡大の設計(小さく失って大きく勝つ)にするのが合理的です。これは“運が悪くなる行為を避ける”ではなく、分散に味方してもらう戦略です。
セイジ
でも「努力した人が報われる」は正しいっすよね??
プロ先生
努力は重要です。ただし結果=努力×環境×偶然で、外部要因の影響がしばしば大きいのが現実。卒業年の景気や家庭背景の影響は長く残ります。努力を否定せず、環境のテコ入れ(移動・学び直し・ネットワーク)も並行しましょう。
セイジ
「最近ツイてない友達」に何て声かければいいんすか??
プロ先生
まずは回帰効果を共有して「今が底かも」と安心させ、次に小さな実験の回数を一緒に増やす提案をします。加えて、失敗を本人の性格や行為に短絡しない姿勢が大切です(帰属の誤りを避ける)。
まとめ
- 運=環境と偶然の寄与が大きい。「行為だけ」説は、研究とデータに反します。
- バイアスに自覚的に。人は他人の不運を“行為のせい”にしがちです。
- 実務は確率で設計。試行回数・上振れ設計・環境テコ入れで“運”に備えます。







































